羊皮をきた召使 大手拓次
羊皮をきた召使
お前は羊皮(やうひ)をきた召使だ。
くさつた思想をもちはこぶおとなしい召使だ。
お前は紅い羊皮をきたつつましい召使だ。
あの ふるい手なれた鎔爐のそばに
お前はいつも生生(いきいき)した眼で待つてゐる。
ほんたうにお前は氣の毒なほど新らしい無智を食べてゐる。
やはらかい羊の皮のきものをきて
すずしい眼で御用をきいてゐる。
すこしはなまけてもいいよ、
すこしはあそんでもいいよ、
夜(よる)になつたらお前自身の考をゆるしてやる。
ぬけ羽のことさへわすれた老鳥(おいどり)が
お前のあたまのうへにびつこをひいてゐる。