貘 萩原朔太郎 (「冬」初出形)
貘
あきらかなるもの現れぬ、
つみとがのしるし天にあらはれ、
懺悔のひとの肩にあらはれ、
齒に現はれ、
骨に現はれ、
木木の梢に現はれ出で、
眞冬をこえて凍るがに、
犯せる罪のしるしよもにあらはれぬ。
――淨罪詩扁――
[やぶちゃん注:『地上巡禮』第二巻第二号・大正四(一九一五)年三月号所載。「扁」はママ。次に示す「月に吠える」の「冬」の初出形である。これが「淨罪詩」篇であり、映像が夢のイマージュのように描かれ、しかも題名が「貘」である時、実はこの悪夢としての一篇は「貘」に食われることを望み、若しくは「獏」に食われることによって昇華するところの、実はまさに「淨罪」の詩篇であった可能性を示唆しているように私には思えるのである。]