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2013/03/21

恐ろしく憂鬱なる 萩原朔太郎 (初出形)

 恐ろしく憂鬱なる

 

こんもりとした森の木立のなかで

いちめんに白い蝶類が飛んでゐる

むらがる、むらがりて飛びめぐるてふ、てふ、てふ、てふ

みどりの葉のあつぼつたい隙間から

ぴか、ぴか、ぴか、ぴかと光る そのちいさな鋭どいつばさ

いつぱいに群がつてとびめぐるてふ、てふ、てふ、てふ、てふ、てふ、てふ、てふ、てふ、 てふ、てふ、てふ

ああ これはなんといふ憂欝なまぼろしだ

このおもたい手足おもたい心臟

かぎりなくなやましい物質と物質との重なり

ああ これはなんといふ美しい病氣だ

疲れはてたる神經のなまめかしいたそがれどきだ

私はみる、ここに女たちの投げ出したおもたい手足を

つかれはてた股(もも)や乳房のなまめかしい重たさを

その鮮血のやうなくちびるはここにかしこに

私の靑ざめた屍體のくちびるに、額に、かみに、かみのけに、ももに、胯に、腋のしたに、足くびに、あしのうらに、みぎの腕にも、ひだりの腕にも、腹のうへにも押しあひて息ぐるしく重なりあふ

むらがりむらがる物質と物質との淫猥なるかたまり

ここにかしこに追ひみだれたる蝶のまつくろの集團

ああ この恐ろしい地上の陰影

このなまめかしいまぼろしの森の中に

しだいにひろがつてゆく憂欝の日かげをみつめる

その私の心はぢたばたと羽ばたきして

小鳥の死ぬるときの醜いすがたのやうだ

ああこのたえがたく腦ましい性の感覺

あまりに恐ろしく憂欝なる。

 

   詩中平假名にて書きたる「てふてふ」は

   文字通り「て、ふ、て、ふ」と發音して

   讀まれたし「チヨーチヨー」と讀まれて

   は困る。

 

[やぶちゃん注:『感情』第二年五月号・大正六(一九一七)年五月号所収。底本(筑摩版全集第一巻一四九頁)では五行目の「隙間」の「隙」の(つくり)上部は「少」。その他はママ。最後の注記は底本ではポイント落ち。二箇所の下線部は底本では傍点「ヽ」。標題のみ「鬱」で、本文では「欝」とある。]

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