文學者と讀者 萩原朔太郎
文學者と讀者
文學者に對する世人の誤解は、彼等が概して感性的な氣質人であり、作品中の人物に同情したり、熱烈に戀愛したりすることによつて、人情に厚く、情誼に溺れ易い性格の人だと誤信することにある。實を言へば、文學者ほどにも、冷靜で非人情的なものはない。人情を書く場合にさへも、彼等は冷い知性によつて、さうした心理を觀察し、いつも人生を局外から、客觀的に批判してゐるのである。ところが讀者の方では、その作品の背後に、知性的な觀察者が居るといふことを、いつも忘れてゐるのである。
[やぶちゃん注:昭和一五(一九四〇)年創元社刊のアフォリズム集「港にて」の冒頭パート「詩と文學 1 詩――詩人」の十番目、先に示した「藝術家の原罪」の直後に配されたものである。]