長き夜の夢を夢ぞと知る君はさめて迷へる人を助けむ 明恵
上覺上人の許より、
みる事は
みなつねならむ
うき世かな
夢かとみゆる
程のはかなさ
と申したりける返事に
長き夜の夢を夢ぞと知る君はさめて迷へる人を助けむ 明惠
[やぶちゃん注:底本は岩波文庫一九八一年刊久保田淳・山口明穂校注「明恵上人集」の本文及び注を用いて「新続古今和歌集」巻八の釈教歌の八五一に載る形をを再現した。但し、恣意的に正字化し、また詞書を読み易い特殊な字配に変えた。「上覺上人」は真言僧。明恵の叔父(亡母の兄弟)で文覚の弟子。彼に従って明恵は数え九歳(養和元(一一八一)年)で神護寺に入山した。私撰集に「玄宝集」、歌学書「和歌色葉」を著わすなど、歌人としても知られた。底本の「明恵上人歌集」の部の本文(底本は東洋文庫版)では、
御報
長き夜の夢を夢ぞと知る君やさめて迷へる人を助けむ
の形で載る。]
*
間違って貰っては困る――
この歌はありきたりな夢を無常の儚きものと捉えたり――譬えたりしている――歌では――ない――のだ――
……上覚上人さま……
……あなたは……「長き夜の夢を夢ぞと知る」あなたは「さめて迷へる人を助けむ」御方……
tえしかし私は……夢を儚きものとは……
……これ、思いませぬ……
……私は……私の「長き夜の夢」を……
……確かな私の「夢」として……
……「迷へる人を助け」んための……
……その方途と致しましょう――
……信じ難い? なれば、近いうちにそれについてお話を始めようと存ずる……
という驚天動地の確信の宣言なのである――