銀の足鐶 大手拓次
銀の足鐶
――死人の家をよみて――
囚徒らの足にはまばゆい銀のくさりがついてゐる。
そのくさりの鐶(くわん)は しづかにけむる如く
呼吸をよび 嘆息をうながし、
力をはらむ鳥の翅(つばさ)のやうにささやきを起して、
これら 憂愁にとざされた囚徒らのうへに光をなげる。
くらく いんうつに見える囚徒らの日常のくさむらをうごかすものは、
その、感觸のなつかしく 強靱なる銀の足鐶(あしわ)である。
死滅のほそい途(みち)に心を向ける これらバラツクのなかの人人は
おそろしい空想家である。
彼等は精彩ある巣をつくり、雛(ひな)をつくり、
海をわたつてとびゆく候鳥である。
[やぶちゃん注:「死人の家」は、恐らくドストエフスキイの「死の家の記録」(原題“Записки из Мёртвого дома”一八六二年作)である。かれが読んだのは片上伸(かたやまのぶる)訳の大正三(一九一四)年博文館刊の「近代西洋文芸叢書」第六冊に所収されたものであろう。この時の邦訳題は「死人の家」である。]