初夏の印象 萩原朔太郎 (「純情小曲集」版)
初夏の印象
昆蟲の血のながれしみ
ものみな精液をつくすにより
この地上はあかるくして
女の白き指よりして
金貨はわが手にすべり落つ。
時しも五月のはじめつかた。
幼樹は街路に泳ぎいで
ぴよぴよと芽生は萌えづるぞ。
みよ風景はいみじくながれきたり
青空にくつきりと浮びあがりて
ひとびとのかげをしんにあきらかに映像す。
[やぶちゃん注:ヴィジュアル的には初出よりも遙かに先鋭的に透徹した――が――朗読するにはたるんだと言わざるを得ない。最早、この沈鬱へと沈潜する二次元の影となってしまった人々は、朗誦を拒絶しているのである。]