生きたる過去 大手拓次
生きたる過去
とりかへしのつかない、あの生きたる過去は
ひたひの傷をおさへながらあるきまはる。
だらだらとよみがへつた生血(なまち)はひたひからおちて、
牡熊(をぐま)のやうにくるしさをしのんでゐる。
過去は永遠のとびらをふさがうとする。
過去はたましひのほとりに黄金(こがね)のくさりを鳴らす。
わたしのもえあがる戀の十字架のうへにうつくしい棺衣(かけぎぬ)と灰の白刃(しらは)とを與へる。
かなしい過去のあゆみは
わたしのからだを泥海のやうにふみあらす。
[やぶちゃん注:現代思潮社刊現代詩人文庫「大手拓次詩集」では、
わたしのもえあがる戀の十字架のうへにうつくしい棺衣(かけぎぬ)と灰の白刃(しらは)とを與へる。
の一行を、
わたしのもえあがる戀の十字架のうへに
うつくしい棺衣(かけぎぬ)と灰の白刃(しらは)とを與へる。
と二行に分かつが、採らない。]