竹の根の先を掘るひと 萩原朔太郎 (「竹」別ヴァージョン)
竹の根の先を掘るひと
病氣はげしくなり
いよいよ哀しくなり
三ケ月空にくもり
病人の患部に竹が生え
肩にも生え
手にも生え
腰からしたにもそれが生え
ゆびのさきから根がけぶり
根には纎毛がもえいで
血管の巢は身體いちめんなり
ああ巢がしめやかにかすみかけ
しぜんに哀しみふかくなりて憔悴れさせ
絹糸のごとく毛が光り
ますます鋭どくして耐えられず
つひにすつぱだかとなつてしまひ
竹の根にすがりつき、すがりつき
かなしみ心頭にさけび
いよいよいよいよ竹の根の先を掘り。
[やぶちゃん注:『卓上噴水』第一集・大正四(一九一五)年二月号に掲載された。後の詩集「月に吠える」初版(大正六(一九一七)年二月感情詩社・白日社出版部共刊)の巻頭の載る「竹とその哀傷」の二篇の別ヴァージョンである。下線「すつぱだか」は底本では傍点「ヽ」。「憔悴れさせ」は「やつれさせ」と訓じていよう。「耐え」及び「ついに」はママ。]
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