鬼城句集 春之部 蕨
蕨 松風のごうごうと吹くや蕨取り
[やぶちゃん注:底本では「ごうごう」の後半は踊り字「〱」。]
王公の履を戴かず蕨かな
[やぶちゃん注:これは「史記」列伝第一に挙げられた殷末の孤竹国(一説に河北省唐山市周辺)の王子の兄弟で、高名な隠者にして儒教の聖人伯夷(はくい)と叔斉(しゅくせい)が、周の武王(本句の「王公」)が父文王の喪の内に紂王を討とうとするのを不忠として諌め、その不忠の君子の国の糧を食むを恥として、王の詫びと重用を拒否し(本句の「履(り)を戴かず」)首陽山に隠れ、蕨(本句の下五)・薇(ぜんまい)を食としたが、遂に餓死して亡くなった故事に基づく。因みに、私は蕨や薇の新芽の渦巻きを見ていると、いつも藁草履を思い出すのを常としている。]
蕨たけて草になりけり草の中
蕨出る小山讓りて隱居かな
食ふほどの蕨手にして飛脚かな