柳 萩原朔太郎 (「蝶を夢む」版)
柳
放火、殺人、竊盜、夜行、姦淫、およびあらゆる兇行をして柳の樹下に行はしめよ。夜において光る柳の樹下に。
そもそも柳が電氣の良導體なることを、最初に發見せるもの先祖の中にあり。
手に兇器をもつて人畜の内臟を電裂せんとする兇賊がある。
かざされたるところの兇器は、その生(なま)あたたかき心臟の上におかれ、生ぐさき夜の呼吸において點火發光するところのぴすとるである。
しかしてみよ、この黑衣の曲者(くせもの)も、白夜柳の木の下に凝立する所以である。
[やぶちゃん注:大正一二(一九二三)年七月新潮社刊の詩集「蝶を夢む」の掉尾に配された「散文詩 四篇」(『「月に吠える」前派の作品』という添書きを持つ)の二篇目。]