老人 大手拓次
老人
わたしのそばへきて腰をかけた、
ほそい杖(つゑ)にたよつてそうつと腰をかけた。
老人はわたしの眼をみてゐた。
たつたひとつの光がわたしの背にふるへてゐた。
奇蹟のおそはれのやうに
わらひはじめると、
その口(くち)がばかにおほきい。
おだやかな日和(ひより)はながれ、
わたしの身がけむりになつてしまふかとおもふと、
老人は白いひげをはやした蟹のやうにみえた。
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老人
わたしのそばへきて腰をかけた、
ほそい杖(つゑ)にたよつてそうつと腰をかけた。
老人はわたしの眼をみてゐた。
たつたひとつの光がわたしの背にふるへてゐた。
奇蹟のおそはれのやうに
わらひはじめると、
その口(くち)がばかにおほきい。
おだやかな日和(ひより)はながれ、
わたしの身がけむりになつてしまふかとおもふと、
老人は白いひげをはやした蟹のやうにみえた。