抒情詩と敍事詩 萩原朔太郎
抒情詩と敍事詩
抒情詩の實は音樂的であり、敍事詩の美は建築的である。前者の魅力は、時間の持續する旋律のペーソスと、その曲線的な流動の美しさにある。後者の魅力は、空間上に固定した律動の均齊美と、その莊重典雅な雄大性とにある。ところで日本では、建築そのものさへが抒情詩化し「物のあはれ」のペーソスを表現するところの、茶座敷風な物に造られてゐる。日本に抒情詩だけが發育して、敍事詩の無かつた所以(ゆゑん)である。
[やぶちゃん注:昭和一五(一九四〇)年創元社刊のアフォリズム集「港にて」の冒頭パート「詩と文學 1 詩――詩人」の二十三番目、先に示した「リリシズムの悲哀(ペーソス)」の直後に配されたものである。このアフォリズムは鋭い。]

