朱の搖椅子 大手拓次
朱の搖椅子
岡をのぼる人よ、
野をたどる人よ、
さてはまた、とびらをとぼとぼとたたく人よ、
春のひかりがゆれてくるではないか。
わたしたちふたりは
朱と金との搖椅子(ゆりいす)のうへに身をのせて、
このベエルのやうな氛氣(ふんき)とともに、かろくかろくゆれてみよう、
あの温室にさくふうりん草(さう)のくびのやうに。
[やぶちゃん注:「氛氣」空中に見えるクモや、かすみのような気。なお古くは空気・大気の原義である「雰囲気」を「氛圍氣」とも書いた。
「ふうりん草」双子葉植物綱キキョウ目キキョウ科ホタルブクロ属 Campanula のホタルブクロ(螢袋)のことか、若しくは狭義の同属のフウリンソウ Campanula medium を指している。現在は改良品種が学名のラテン名「小さな鐘」をそのまま用いてカンパニュラ(カンパヌラ)などとも呼ばれる。フウリンソウ Campanula medium は園芸では正式和名のフウリンソウよりもツリガネソウ(釣鐘草)と呼ぶことの方が多いらしい。ウィキの「カンパニュラ」 の「ふうりんそう」の項(画像あり)には(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更した)、『この仲間では最もポピュラーな植物。草丈二メートルくらいになる二年草だが、秋まきで翌春開花する一年草に改良された品種もある。花色には青紫・藤色・ピンク・白などがあり、上手に育てると、花径一〇センチメートル近い花が数十輪咲き、花壇の背景などに植えると見事である』とある。ここは温室とあるので、後者と考えてよかろう。]