紫の盾 大手拓次
紫の盾
あをい環(わ)をつみかさねる銅鑼(どら)の遠音(とほね)はうかび、
金衣の僧侶(そうりよ)はいでて祈禱をさづけ、
階段のうへに秋はさめざめとうろついてゐるなかを、
紫(むらさき)の縞目(しまめ)をうつした半月(はんげつ)の盾(たて)をだいて
憔悴した惡徒は入りきたる。
哀音は友をよんで部屋部屋(へやべや)にうつりゆき、
自戒の念にとりまかれた朝はやぶれる。
地をかきたてるかなしい銅鑼(どら)がなれば、
角(つの)ある鳥をゑがいた紫の盾はやすやすともたげられて、
死(し)のまへにみじろぐ惡徒の身をかくす。
紫の盾よ さちあれ、
生をよびかへす白痴の胸にも花よかをれ。