無能者のエゴイズム 萩原朔太郎
無能者のエゴイズム
自分の愛の誠實さを、女が認めてくれないと言つて怒る男は、實際に女への奉仕をしないで、單にその愛だけを強ひるところのエゴイストである。或る詩人や文學者等が、彼等を認めてくれない讀者に對して、しばしばその同じ鬱憤を爆發させてる。彼等は常に自分がいかに誠實であり、いかに純潔であるかを宣言する。しかもその藝術的天分の貧困については、自ら意識しないのである。
[やぶちゃん注:昭和一五(一九四〇)年創元社刊のアフォリズム集「港にて」の冒頭パート「詩と文學 1 詩――詩人」の十八番目、先に示した「文學の倫理性」の直後に配されたものである。]