春のかなしみ 大手拓次
春のかなしみ
かなしみよ、
なんともいへない 深いふかい春のかなしみよ、
やせほそつた幹(みき)に春はたうとうふうはりした生きもののかなしみをつけた。
のたりのたりした海原のはてしないとほくの方へゆくやうに
ああ このとめどもない悔恨のかなしみよ、
温室のなかに長いもすそをひく草のやうに
かなしみはよわよわしい賴(たよ)り氣をなびかしてゐる。
空想の階段にうかぶ鳩の足どりに
かなしみはだんだんに虛無の宮殿にちかよつてゆく。
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