耳のうしろの野 大手拓次
耳のうしろの野
わたしの耳のうしろにある黄色い野は
僞笑をふくんであでやかに化粧する。
その野のなかにはみどり色の眼をもつた自働車がうごき
いうれいのやうにひるがへる女たちはゆききする。
ただ そこに荒武者のやうに
ひとりの男は銀の穗先(ほさき)の槍をもつてたはむれる。
ふたつの手をもつ世(よ)のひとびとよ、
耳のおくにある幻の伶樂(れいがく)をきけ、
美裝をこらした惡魔どもは
あまい毒刃(どくじん)のゆめよりさめて、
騷然たる神前の吹笛にふける。
かくして、
耳のうしろにある黄色い野は死の頭上にしづかにもえてゐる。