時計を見る狂人 萩原朔太郎 (初出形)
時計を見る狂人
或る瘋癲病院の部屋の中で、終日椅子の上に坐り、時計の指針を凝視してゐる男が居た。おそらく世界の中で、最も退屈な人間が此所に居ると私は思つた。ところが反對であり、院長は次のやうに話してくれた。「この不幸な人は、人生を不斷の活動と考へてゐるのです。それで一瞬の生も無駄にせず、貴重な時間を浪費すまいと考へ、ああして毎日、やツつてるのです。何か話しかけてご覽なさい。きつと腹立しげに怒張るでせう。默れ! いま一秒時が過ぎ去ると。」
[やぶちゃん注:『新作家』昭和六(一九三一)年五月号に所収。「怒張る」はママ。]

