みどりの狂人 大手拓次
みどりの狂人
そらをおしながせ、
みどりの狂人よ。
とどろきわたる媢嫉(ばうしつ)のいけすのなかにはねまはる羽(はね)のある魚は、
さかさまにつつたちあがつて、
齒をむきだしていがむ。
いけすはばさばさとゆれる、
魚は眼をたたいてとびださうとする。
風と雨との自由をもつ、ながいからだのみどりの狂人よ、
おまへのからだが、むやみとほそくながくのびるのは、
どうしたせゐなのだ。
いや………‥魚がはねるのがきこえる。
おまへは、ありたけのちからをだして空をおしながしてしまへ。
[やぶちゃん注:「媢嫉」妬み憎むこと、忌み嫌う、の意。「媢」は、ねたむ・そねむ・忌む及び憎むの意を持つ。終わりから二行目のリーダ部は、底本では等間隔で十一ポイントある。]