沢庵宗彭「鎌倉巡禮記」 36
拜稻荷山淨妙寺開山塔、曰光明院行勇禪師
月沈野水光明院 峯披靑雲祖塔婆
當昔決竜蛇陣處 看來今日一僧伽
[やぶちゃん注:以上を底本の訓点を参考にしながら、私なりに書き下しておく。
稻荷山淨妙寺開山塔を拜し、光明院行勇禪師を曰(よ)ばふ、
月 野水に沈む 光明院
峯 靑雲に披く 祖塔婆
當昔(たうせき) 竜蛇陣を決する處
看來 今日 一僧伽(そうぎや)
底本では標題の「曰」は「日」。勝手に「曰」と判断した。また、標題及び漢詩全文には送り仮名が全くなく、「曰」を「よばふ」(呼ばふ)と訓じたりしたのも私の独断である。大方の御批判を俟つ。
「當昔」往昔。古え。
「竜蛇陣」兵法の陣立ての一つ。「碧巌録」の第七十一則「百丈併却咽喉」〔百丈、咽喉(のど)を却(ふさ)ぐ〕の「頌」等に用例がある。ここでは禅の祖師らの公案の発問を言い、「決する」はそれを喝破し、悟達したことを指すものと思われる。
「看來今日一僧伽」「僧伽」は教団を言うが、ここは単に寺の堂のことであろう。先の浄明寺訪問記載を見れば――見たところ、今日只今は、ただの寂れた堂があるばかり――という謂いであることが分かる。]

