沢庵宗彭「鎌倉巡禮記」 33
拜瑞鹿山圓覺寺開山佛光禪師、
圓覺伽藍包大千 大千日月這中旋
展虛空手禮三拜 宇宙横身老鉅禪
[やぶちゃん注:以上を底本の訓点を参考にしながら、私なりに書き下しておく。
瑞鹿山圓覺寺開山佛光禪師を拜す、
圓覺伽藍 大千を包む
大千 日月 這中(しやちゆう)に旋(めぐ)る
虛空手を展して 禮 三拜
宇宙 身を横ふ 老鉅禪(らうきよぜん)
「大千」大千世界。三千大千世界の一つで中千世界を千集めたもので、仏の教化の及ぶ範囲の意に用いる。
「這中」は「しゃちゅう」で、この中の意。「這」は這うの意の場合は音は「ゲン・コン」であるが、「シャ」と読む時、「これ」「この」という指示語になる。同様の意で這箇(しゃこ)・這般(しゃはん:これには別に此度・今度の意がある。)、「このように」の意で這麼(しゃま)等、禅語では頻繁に見かける用字である。
「老鉅」「鉅」には尊(たっと)いの意があり、「鉅偉」(優れて大きい)・「鉅卿(きょけい)」(貴人/他者を尊んで言う二人称代名詞)・「鉅公」(「鉅卿」と同義/名人。その道の達人/天子)の熟語があり、「老」は「老師」「老台」「老爺」等と同じく年長者への尊敬の接頭語であろうから、仏光国師無学祖元の禅の三昧境を言っている。祖元の禅の指導法は頗る懇切で、実に「老婆禅」(年老いた女が世話をやくように万事洩れなく行き届いているの意であろう)と呼ばれ、多くの鎌倉武士の尊崇を受けたのであった。]