栂尾明恵上人伝記 8 驚愕の開明夢
賢如房(けんによばう)の律師尊印、其の比(ころ)碩學(せきがく)たるに依つて、不審を問ひ奉るに、分明(ぶんみやう)ならざる事共有りき。是を如何にしてか明(あき)らめんと思ひて、寐(いね)たる夜の夢に、一人の梵僧(ぼんそう)來りて對面して、其の不審を一々に説き明らむ。誠にかくこそと覺えて隨喜(ずゐき)極りなし。暫く有りて、此の梵僧語つていはく、汝(なんぢ)先世(せんせい)に釋迦如來に結緣(けちえん)し奉ること五百生(ごひやくしやう)なり。當來(たうらい)も亦五百生親近(しんごん)し奉るべしとて去りぬ。翌日尊印に對して、此の趣(おもむき)を述ぶるに、此の深義(しんぎ)未だ知らざる所なりとて、希有(けう)の思ひをなしき。
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恐るべきの開明夢である。これが、何と十歳前後の小学校高学年相当の男の子の神秘体験なのである。
明恵という驚くべき存在が夢によって啓かれるのである。