櫻 萩原朔太郎
教え子の誕生日に――
*
櫻
櫻のしたに人あまたつどひ居ぬ
なにをして遊ぶならむ。
われも櫻の木の下に立ちてみたれども
わがこころはつめたくして
花びらの散りておつるにも涙こぼるるのみ。
いとほしや
いま春の日のまひるどき
あながちに悲しきものをみつめたる我にしもあらぬを。
[やぶちゃん注:「純情小曲集」(大正一四(一九二五)年八月新潮社刊)より。冒頭の「愛憐詩篇」の四番目に配された。以下に『朱欒』第三巻第五号・大正二(一九一三)年五月号掲載の初出を掲げる。こちらは無題である。
櫻のしたに人あまたつどひ居ぬ。
なにをして遊あそぶならむ
われも櫻の木の下に立ちてみたれども
わがこゝろはつめたくして
花びらの散ちておつるにも涙こぼるゝのみ
いとほしや
いま春の日のまひるどき
あながちに悲しきものをみつめたる我にしもあらぬを
「散ちて」はママ。]
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