栂尾明恵上人伝記 6 明恵が記す人生最初の夢――ばらばらになった乳母の肉体――
其の夜、坊に行き著きて臥したる夢に、死にたりし乳母、身肉(しんにく)段々に切られて散在せり。其の苦痛夥(おびたゞ)しく見えき。此の女、平生(へいぜい)罪深かるべき者なれば、思ひ合せられて殊に悲しく、彌(いよいよ)能き僧に成りて、彼等が後生(ごしやう)をも助くべき由を思ひとり給ひけり。
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満八歳にして仏心を発(おこ)こし、神護寺に入った、まさに、その日の晩に見た夢である。
――これが明恵自身の夢記述の濫觴である。
――そうして
――「明恵の夢」という映画の冒頭シーンは
――まさに
――ずたずたに切り裂かれた乳母の肉体
――というショッキングなものだったのである……