祈禱 萩原朔太郎
祈禱
ぴんと光つた靑竹
そこいららいちめん
ずばすば生えたやぶの中でへ
おれはぎりぎりはぎしりをした
おれはすつばたかでつつ立つて
おれはいのちかげ死にものくるひの懺悔キトーをするのだした
笹のすきまからみえる
いまつかの太陽地面の下での下で上で
おれぎりぎり齒ぎしりをして祈つた、たきちがひの狂氣の齒はがみをした
みろすつぱだかで立つて居る
みろ笹のすきまから、
天がまつさほにぴるまのやうに光つてみえる
まひまつぴるまの天が光が光つてみえる、
おれは指をとがらして
眞額からすつぱりと
靑竹の□□幹を切りつけた、
[やぶちゃん注:底本の第三巻『草稿詩篇「未發表詩篇」』(四六二五頁)に載るもの。「祈禱」と題する草稿。取り消し線は抹消を示し、その抹消部の中でも先立って推敲抹消された部分は下線附き取り消し線で示した。「□□」は判読不能の抹消字を示す。抹消部分を除去すると、
祈禱
ぴんと光つた靑竹
そこいらいちめん
ずばすば生えたやぶの中へ
おれはすつばたかでつつ立つて
死にものくるひのキトーをした
まつかの地面の上で
ぎりぎり狂氣の齒がみをした
みろ笹のすきまから、
まつぴるまの天が光が光つてみえる、
おれは指をとがらして
眞額からすつぱりと
靑竹の幹を切りつけた、
「ずばすば」「眞額」は底本編者は「ずばずば」「眞向」の誤字とするが、ママとした。なお、こうした除去詩形は底本では示されいない。]
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