年寄の馬 大手拓次
年寄の馬
わたしは手でまねいた、
岡のうへにさびしくたつてゐる馬を、
岡のうへにないてゐる年寄(としより)の馬を。
けむりのやうにはびこる憂鬱、
はりねずみのやうに舞ふ苦悶(くもん)、
まつかに燒けただれたたましひ、
わたしはむかうの岡のうへから、
やみつかれた年寄の馬をつれてこようとしてゐる。
やさしい老馬よ、
おまへの眼(め)のなかにはあをい水草(すゐさう)のかげがある。
そこに、まつしろなすきとほる手をさしのべて、
水草のかげをぬすまうとするものがゐる。
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年寄の馬
わたしは手でまねいた、
岡のうへにさびしくたつてゐる馬を、
岡のうへにないてゐる年寄(としより)の馬を。
けむりのやうにはびこる憂鬱、
はりねずみのやうに舞ふ苦悶(くもん)、
まつかに燒けただれたたましひ、
わたしはむかうの岡のうへから、
やみつかれた年寄の馬をつれてこようとしてゐる。
やさしい老馬よ、
おまへの眼(め)のなかにはあをい水草(すゐさう)のかげがある。
そこに、まつしろなすきとほる手をさしのべて、
水草のかげをぬすまうとするものがゐる。