きのふけふ 萩原朔太郎 (「利根川のほとり」初出形)
」 きのふけふ
きのふまた身を投げんと思ひて、
利根川のほとりをさまよひしが、
水の流れはやくして、
わがなげき、せきとむるすべしなければ、
おめおめと生きながらへて、
今日もまた川邊に來り石投げてあそびくらしつ、
きのふけふ、
あるかひもなきわが身をば、
かくばかりいとしと思ふうれしさ、
たれかは殺すとするものぞ、
抱きしめて、抱きしめてこそ泣くべかりけれ。
[やぶちゃん注:「創作」第三巻第一号・大正二(一九一三)年八月号に掲載された。以下に示す大正一四(一九二五)年八月新潮社刊「純情小曲集」の「利根川のほとり」の初出形である。
利根川のほとり
きのふまた身を投げんと思ひて
利根川のほとりをさまよひしが
水の流れはやくして
わがなげきせきとむるすべもなければ
おめおめと生きながらへて
今日もまた河原に來り石投げてあそびくらしつ。
きのふけふ
ある甲斐もなきわが身をばかくばかりいとしと思ふうれしさ
たれかは殺すとするものぞ
抱きしめて抱きしめてこそ泣くべかりけれ。
題名及び読点の全除去その他、詩集中の「愛憐詩篇」の一連の詩群の表記統一によるものとは思われるが、どれも私には解せない改変である。朔太郎が多く望んだ朗唱を考えるならば、初出の方が遙かに優れていると私は思う。]

