むらがる手 大手拓次
むらがる手
空(そら)はかたちもなくくもり、
ことわりもないわたしのあたまのうへに、
錨(いかり)をおろすやうにあまたの手がむらがりおりる。
街(まち)のなかを花とふりそそぐ亡靈のやうに、
ひとしづくの胚珠(はいしゆ)をやしなひそだてて、
ほのかなる小徑(こみち)の香(か)をさがし、
もつれもつれる手の愛にわたしのあたまは野火(のび)のやうにもえたつ。
しなやかに、しろくすずしく身ぶるひをする手のむれは、
今(いま)わたしのあたまのなかの王座をしめて相姦(さうかん)する。
[やぶちゃん注:私はこの最終行を無類に偏愛する。]