白金屍體――天上縊死續篇―― 萩原朔太郎 (「天上縊死」草稿4)
天上縊死
――第二屍體白金屍體
白金屍體
――天上縊死續扁――
夕日遠夜の松に首を吊る
懺悔にくるゝ→おはれるに果つる人ひとり
手に綠金ひとり銀光のアルバムをひつさげしが
はや頸に靑き紐をまきつけ
あはれあはれいまこそはやはや
天上の松に首を吊らんと縊ると
懺悔に果つる人ひとり
そのラジウムの→長き丈高き肢體はしだれ
そのラヂウムの瞳はめしひ
身内たちどころに電光したゝり宙に吊りあげられ
あはれあはれあげられあげられ
夕日光さんさんたる松の梢に吊られ
この哀しめる、罪人の手はさげらぬ、
遠夜の空にうすあかりあかねさし。
――淨罪詩扁――
[やぶちゃん注:取り消し線は抹消を示し、その抹消部の中でも先立って推敲抹消された部分は下線附き取り消し線で示した。「→」の末梢部分は、ある語句の明らかな書き換えがともに末梢されたことを示す。二箇所の「扁」「おはれる」「さげらぬ」はママ(最後は「さげられぬ」の脱字であろう)。
なお、底本編者の注によれば、これには別な(重要とは思われずに公開されていない)別稿があり、それには
夜の松縊死屍體の言語
という題がある、という注記が附されてある。
これと、この前の無題の草稿は、どうも「天上縊死」には共時的にマルチ・カメラで撮った画像を再編集したような、饒舌な「天上縊死續篇」が目論まれていたようにも見受けられる。 抹消部を除去すると、
*
白金屍體
――天上縊死續扁――
遠夜の松に首を吊る
懺悔に果つる人ひとり
ひとり銀のアルバムをひつさげしが
頸に靑き紐をまきつけ
あはれはや
天上の松に首を縊ると
懺悔に果つる人ひとり
その丈高き肢體はしだれ
そのラヂウムの瞳はめしひ
身内たちどころに宙に吊りあげられ
あげられあげられ
光さんさんたる松の梢に吊られ
この哀しめる、罪人の手はさげらぬ、
遠夜の空にうすあかねさし。
――淨罪詩扁――
*
となる。]
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