怪物 大手拓次
怪物
からだは翁草(おきなぐさ)の髮のやうに亞麻色の毛におほはれ、
顏は三月の女鴉(をんなからす)のやうに憂鬱にしづみ、
四つの足ではひながらも
ときどきうすい爪でものをかきむしる。
そのけものは ひくくうめいて寢ころんだ。
曇天の日沒は銀のやうにつめたく火花をちらし、
けもののかたちは 黑くおそろしくなつて、
微風とともにかなたへあゆみさつた。
[やぶちゃん注:「翁草」双子葉植物綱キンポウゲ目キンポウゲ科オキナグサ
Pulsatilla cernua。葉や花茎など全体的に白い長い毛に被われており。花茎の高さは花期の頃で一〇センチメートル程。花後の種子が付いた白い綿毛が附く頃には三〇~四〇センチメートルになる。花期は四~五月で、暗赤紫色の花を花茎の先端に一個宛附ける。開花の頃はうつむいて咲くが、後に上向きに変わる。花弁に見えるのは萼片で、その外側はやはり白い毛で被われる。白く長い綿毛がある果実の集まった姿を老人の頭に譬え、和名をオキナグサ(翁草)とする。ネコグサという異称もある。全草にプロトアネモニン・ラナンクリンなどを含む有毒植物で、植物体から分泌される汁液に触れれば皮膚炎を引き起こすこともあり、誤食して中毒すれば腹痛・嘔吐・血便のほか痙攣・心停止(プロトアネモニンは心臓毒)に至る可能性もある。漢方においては根を乾燥させたものが白頭翁と呼ばれ、下痢・閉経などに用いられる。本邦では北海道を除く各地に普通に自生していたが、農家によって手入れされていた植生する草地が荒廃したことや開発の進行・山野草としての栽培目的の採取によって各地で激減、現在、環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。(以上はウィキの「オキナグサ」に拠った)。]