穴 萩原朔太郎 (「竹」詩想篇)
穴
かたい地面を掘つくり返して
そつくりさあんずのきを植えつけた
穴の中に風ありかぢこんでゐる
穴《に》の中に風あり
ぐんぐんつきや
おれはまつ四角さきにきりふみこんだぎりぎり齒ぎりしをした
おれのあたまの上にかさなつた天
ぐんぐんふみつける
あのおれは死を血みどれの死體からどこまでも逃げてゆくのだ生きて居るのだ
みろああみろ、おれはいのちがけのおれの懺悔をするのだ
おれは血を吐きくちびるから
くさつた地めべたへ血を吐きつけて
力いつぱいにのびあがつたふみつけた
おれのそのとき肩の上から
ぴんと光つた靑竹が生えた
おれは人さし指をとがらして
眞額からすつぱりと
{するどい光線の反流を畫いた、}
{するどい光線の脈を畫いた、}
{するどい靑竹の脈をきりつけた、}
{靑竹の線脈をきりつけた、}
[やぶちゃん注:底本の第三巻『未發表詩篇』(三〇四~三〇五頁)に載るもの。〈「竹」詩想〉篇の一つ。取り消し線は抹消を示し、その抹消部の中でも先立って推敲抹消された部分は下線附き取り消し線で示した。{ }で示したものは、
「するどい」の下に「光線の」と「靑竹の脈をきりつけた」が、
「光線の」の下に「反流」と「脈」が、
更に、その
「するどい」以下の全体と「靑竹の線脈をきりつけた」が、
並置されて、いずれも残っているのを、私なりの方法で表現したものである(底本のような大丸括弧による行に渡る表示がブラウザでは面倒なためである)。以上の抹消部を除去し、明らかな意味の通じない誤植部分(「齒ぎりし」)を補正し、最終行の候補を「or」で並べると、
穴
穴おれはぎりぎり齒ぎしりをした
おれのあたまの上にかさなつた天
ああみろ、おれはいのちがけの懺悔をするのだ
くさつた地べたへ血を吐きつけて
力いつぱいにふみつけた
そのとき肩の上から
ぴんと光つた靑竹が生えた
おれは人さし指をとがらして
眞額からすつぱりと
するどい光線の反流を畫いた、
or
するどい光線の脈を畫いた、
or
するどい靑竹の脈をきりつけた、
or
靑竹の線脈をきりつけた、
となる。底本校訂本文は「眞額」を「眞向」とするが、採らない。なお、底本には『本篇は「未發表詩篇草稿」の「祈禱」と関係あり。』とある。次でそれを示す。]
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