蛙にのつた死の老爺 大手拓次
蛙にのつた死の老爺
灰色の蛙の背中にのつた死が、
まづしいひげをそよがせながら、
そしてわらひながら、
手(て)をさしまねいてやつてくる。
その手は夕暮をとぶ蝙蝠のやうだ。
年(とし)をとつた死は
蛙のあゆみののろいのを氣にもしないで、
ふはふはとのつかつてゐる。
その蛙は横からみると金色(きんいろ)にかがやいてゐる、
まへからみると二つの眼(め)がとびでて黑くひかつてゐる。
死の顏はしろく、そして水色にすきとほつてゐる。
死の老爺(おやぢ)はこんな風にして、ぐるりぐるりと世界のなかをめぐつてゐる。