(無題)・祈禱 萩原朔太郎 (未発表詩「祈禱」草稿二篇)
すつぱりすつきり光とがつた光つて→直立して靑竹
ぴんと光つた靑竹
眼のそこいらいちめんそこでもこゝでも
ずばすば生えたヤブの中をでもで
おれはぐんぐんつきおれほぐんくつきやぶつてすゝんだ
ひつそりして立とまると
┃ぴいぴいと鳥がなくいてゐる
┃いちめんにかさなつた笹の隙間から
┃いちにち鳥が鳴いて居る
┃笹葉の隙間から
天がまつさをに光つてみえた
[やぶちゃん注:底本の第三巻『草稿詩篇「未發表詩篇」』(四六三頁)に載るもの。無題であるが、底本では「祈禱」と題するものの草稿とする。取り消し線は抹消を示し、その抹消部の中でも先立って推敲抹消された部分は下線附き取り消し線で示した。「→」の末梢部分は、ある語句の明らかな書き換えがともに末梢されたことを示す。「┃」は実際には繋がっており、これは編者の附したもので、最終的には、
ぴいぴい鳥がないてゐる
かさなつた笹の隙間から
いちにち鳥が鳴いて居る
の三行が、詩句推敲に於ける候補として並列して残存しているということを指す。とりあえず、以上のテクストの抹消部分を除去して示す。
ぴんと光つた靑竹
そこいらいちめん
ずばすば生えたヤブの中で
┃ぴいぴい鳥がないてゐる
┃かさなつた笹の隙間から
┃いちにち鳥が鳴いて居る
天がまつさをに光つてみえた
「ずばすば」は底本編者は「ずばずば」の誤字とするが、ママとした。また、最後の四行もこうして見ると決して平行した重複の詩句のようには見えない。なお、こうした除去詩形は底本では示されいない。しかし、これでそれなりに完成された詩形として我々はこれを読むことが出来るように私には思われるのである。
なお、この後に「祈禱」と題した以上をブラッシュ・アップしたと思われる別草稿も載る。以下に示す。誤字・歴史的仮名遣の誤りはママ。「■■」は判読不能字の抹消字。
祈禱
ぴんと光つた靑竹
そこいらいちめん
ずばすば生えたヤブの中でへ
おれはぎりぎりはぎしりをした
おれはすつぱたかでつつ立つて
おれはいのちかげ死にものくるひの懺悔キトーをするのだした
笹のすきまからみえる
いまつかの太陽地面の下での下で上で
おれぎりぎり齒ぎしりをして祈つた、たきちがひの狂氣の齒はがみをした
みろすつぱだかで立つて居る
みろ笹のすきまから、
天がまつさほにびるまのやうに光つてみえる
まひまつぴるまの天が光が光つてみえる、
おれは指をとがらして
真額からすつぱりと
靑竹の■■幹を切りつけた、
整序してみると、
祈禱
ぴんと光つた靑竹
そこいいちめん
ずばすば生えたヤブの中へ
おれはすつぱたかでつつ立つて
死にものくるひのキトーをした
まつかの地面の上で
ぎりぎり狂氣の齒がみをした
みろ笹のすきまから、
まつぴるまの天が光が光つてみえる、
おれは指をとがらして
真額からすつぱりと
靑竹の幹を切りつけた、
となる。]