何となく泣きたくなりて海へきてまた悲しみて海をのがるる 萩原朔太郎
何となく泣きたくなりて海へきて
また悲しみて海をのがるる
[やぶちゃん注:底本の「萩原朔太郎全集」第十五巻所収の「ソライロノハナ」の歌群「何處へ行く」の章の「その日頃」という下位歌群標題の巻頭の一首。「ソライロノハナ」のみに載る短歌。短歌を配した散文「二月の海」(一九一一年二月のクレジットを持つ)の掉尾に配された「平塚ノ海」の正真正銘最後に置かれた「ソライロノハナ」のみに載る短歌。しかもこの「平塚ノ海」は、エレナ(朔太郎の妹ワカの友人で本名馬場ナカ(仲子とも 明治二三(一八九〇)年~大正六(一九一七)年五月五日)。「エレナ」は彼女の後の洗礼名(受洗は大正三(一九一四)年五月十七日)。朔太郎が十六歳の頃に出逢い、十九で恋に落ちた。後、ナカは明治四二(一九〇九)年に高崎市の医師と結婚して二人の子も儲けたが、結核に罹患、転地療養の末に没した。この自選歌集「ソライロノハナ」を捧げたヒロインである。萩原朔太郎が生涯、永遠の聖少女として追い続けることとなるファム・ファータルである)を訪ねたが、既に彼女は一月前に亡くなっていた、その寂寥を叙景するものである(但し、ご覧の通り、ここには馬場ナカの死との大きなタイム・ラグが存在する。これについて不学な私は現在、読者を納得させるべき知見を持たない。同時に識者のご教授を乞うものである)。これは近い将来、全文を電子化したい。]
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