縊死 萩原朔太郎 (「天上縊死」草稿1)
縊死
遠夜に光る木々松の木の
松にもいのちをかけしめば
遠夜の空に光れる柳ちり松をたれかしる
もえづるみどりしたゝりて
天上の松にくびをかけ
*
柳をすぎて
くるしむものゝ行く路に
松のうら葉をしてを光らしむ
遠夜の空に光らしむ
*
遠夜の空に
白く光れるま白く光る柳の木
柳の木ぬれかゞやける
そが
*
遠樹の上に
ほそくくびはさげられをさげ
長き手は下にさげらるさげ
柳の木ぬれかゞやける
*
柳の木ぬれかゞやける
遠夜の空にくびをかけ死は光る
柳の木ぬれかゞやける
ま白き樹々の柳にかゞやける
遠夜に人の→夜途に我の死は光る
柳の木ぬれかゞやける
*
柳
ま白き柳かゞやける
遠夜の空に死は光る
柳の木ぬれかゞやける
[やぶちゃん注:底本第一巻の「草稿詩篇 月に吠える」の『「天上縊死」(原稿七種八枚)』の最初のワン・セット(編者注に以上の六つの断片は一枚の原稿用紙に書かれている旨、注記があるので一纏めとした)。取り消し線は抹消を示す。「→」の末梢部分は、ある語句の明らかな書き換えがともに末梢されたことを示す。最終連の標題のように見える「柳」の字は本文と同ポイントである。抹消部を除去すると、
※
縊死
遠夜に光る松の木の
松にもいのちをかけしめば
遠夜光れる松をたれかしる
もえづるみどりしたゝりて
天上の松にくびをかけ
*
柳をすぎて
くるしむ
松のうらを光らしむ
遠夜の空に光らしむ
*
遠夜の空に
ま白く光る柳の木
柳の木ぬれかゞやける
そが
*
遠樹の上に
くびをさげ
手はさげ
柳の木ぬれかゞやける
*
柳の木ぬれかゞやける
遠夜の空に死は光る
ま白き柳かゞやける
*
柳
ま白き柳かゞやける
遠夜の空に死は光る
柳の木ぬれかゞやける
※
となる。]