ふくらんだ寶玉 大手拓次
ふくらんだ寶玉
ある夕方、一疋のおほきな蝙蝠が、
するどい叫びをだしてかけまはつた。
茶と靑磁との空は
大口をあいてののしり、
おもい憎惡をしたたらし、
ふるい樹のうつろのやうに蝙蝠の叫びを抱(だ)きかかへた。
わたしは眺めると、
あなたこなたに、ふさふさとした神のしろい髮がたれてゐた。
幻影のやうにふくらんだ寶玉は、
水蛭(みづびる)のやうにうごめいて、
おたがひの身(み)をすりつけた。
ふくらんだ寶玉はおひおひにわたしの腦をかたちづくつた。
[やぶちゃん注:「水蛭」環形動物門ヒル綱ヒルド科ウマビル(馬蛭)
Whitmania pigra のこと。日本全国の水田・池や沼などに広く分布する。体は扁平で長さ一〇~一五センチメートル、幅は体幹の最も広い箇所で一七~二五ミリメートルで背面はオリーブ色、五本の縦線模様が入る。体側縁は淡黄色、腹面は淡色で小さい暗色の斑点が縦に並ぶ。体環は明瞭で体の中央部では一体節に五体環を有する。前吸盤は小さく、その底に口が開く。口には三つの顎(あご)があるが小さく、名前からもしばしば吸血蛭として誤解されているが(但し、この「馬」も恐らくは大きいの謂いであろう)、動物の体に傷をつけて吸血することは出来ず、タニシなどの淡水産腹足類などを捕食している(以上は平凡社「世界大百科事典」の記載を参考にした)。]