耳嚢 巻之七 植替指木に時日有事
植替指木に時日有事
櫻は十月十日にさし木すれば、根付(ねつく)事妙也。竹を植替(うゑかへ)に五月十三日を期日とす。是又根付事奇々の由、於營中に諸侯の語りしが、其外をなす事も同じと語る。
□やぶちゃん注
○前項連関:特になし。
・「五月十三日」「大辞泉」によれば、中国の俗説で竹を植えるのに適する日といわれているとあり、転じて陰暦五月十三日を指す言葉として夏の季語となった。竹迷日。個人ブログ「今日のことあれこれと…」の「竹酔日(ちくすいじつ )」の記載が詳しい。部分的に引用させて戴く(アラビア数字を漢数字に代えさせて頂き、記号やリンクを変更、末尾の一部を省略して引用させて戴いた)。
《引用開始》
この日は、竹が酒に酔った状態になる日で、移植されたことにいっこうに気づかないので、よく活着するという意味から出たもの。中国の徐石麒(しゅしち)によって著わされた「花庸月令(かようげつれい)」には著者が永年にわたって口伝などを集めて実験観察した結果が記録されているそうで、この日に竹を植えられない場合でも、「五月十三日」と書いた紙を植えた竹の枝につるせばよく活着するのだとか……。
こんなことは信じられないが、江戸時代の俳聖と呼ばれた松尾芭蕉の句に以下のようなものがある。
「降らずとも竹植うる日は蓑と笠」(真蹟自画賛一、画賛二・笈日記)
以下参考に記載の「芭蕉DB」の説明によると、『貞亨元年(四十一歳)頃から死の元禄七年(五十一歳)までの間の作品。『笈日記』では、貞亨五年木因亭としているが不明。竹はそのまま植えてもなかなかつかない。この国では新緑の頃に植えないと他の季節ではむずかしい。中国では古来、旧暦五月十三日を「竹酔日<チクスイジツ>」といって竹を植える日とされた。意味は、たとえ雨が降っていない日であろうとも、竹を植える日には蓑笠(以下参考に記載の「蓑笠」参照)を着てやってほしいといった意味で、芭蕉の美意識の現れだ』という。「竹植うる日」は、俳句の夏の季題ともなっており、『去来抄』には「先師の句にて始(はじめ)て見侍(みはべ)る」とあるから、芭蕉がその使い始めであろう。
《引用終了》
・「於營中に」はママ。「營中に於いて」と読む。
■やぶちゃん現代語訳
植え替えや挿し木には最適の時日がある事
桜は十月十日にさし木すれば、根付くこと、これ、絶妙なる由。
竹を植え替るには五月十三日を最適の期日とする。これもまた、根付くこと、摩訶不思議なる由、御城内に於いてさる御大名の語って御座られたが、その他の植え替えや挿し木をする場合でも、これと同様、それぞれの樹種によって最適の時日があるもの、と語っておられた。