天景 萩原朔太郎
天景
しづかにきしれ四輪馬車、
ほのかに海はあかるみて、
麦は遠きにながれたり。
しづかにきしれ四輪馬車、
光る魚鳥の天景を、
また窓靑き建築を、
しづかにきしれ四輪馬車。
[やぶちゃん注:「地上巡礼」第一巻第三号・大正三(一九一四)年十一月号に掲載され、後に詩集「月に吠える」初版(大正六(一九一七)年二月感情詩社・白日社出版部共刊)に所収された。その際、句読点が変更され、現行では、次の詩形が本「天景」として公的に認知されている。
しづかにきしれ四輪馬車、
ほのかに海はあかるみて、
麦は遠きにながれたり、
しづかにきしれ四輪馬車。
光る魚鳥の天景を、
また窓青き建築を、
しづかにきしれ四輪馬車。
私はどう朗読しても、初出の句読点の方を全力で支持するものである。]