陸橋 萩原朔太郎 (「蝶を夢む」版)
陸橋
陸橋を渡つて行かう
黑くうづまく下水のやうに
もつれる軌道の高架をふんで
はるかな落日の部落へ出よう。
かしこを高く
天路を翔けさる鳥のやうに
ひとつの架橋を越えて跳躍しよう。
[やぶちゃん注:大正一二(一九二三)年七月新潮社刊の詩集「蝶を夢む」所収。初出のくだくだしい説明がばっさりと斬られ、移動の場所を示す格助詞「に」の静的なニュアンスから、「翔けさる」という移動の意を表す動詞に応じた動作の経由する場所を示す、より動的な格助詞「を」への変更も含めて、象徴詩としての美事な眼目が開いている。]