叙情小曲 萩原朔太郎
叙情小曲
きみがやえばのうす情け
ほのかににほふたそがれに
遠海(とほみ)の松を光らしめ
遠海(とほみ)の櫻を光らしめ
浪は浪浪きみがかたへと。
[やぶちゃん注:『遍路』第一年第六号・大正四(一九一五)年六月号に掲載された。底本第三巻「拾遺詩篇」より。校訂本文では「叙」を「敍」、「やえば」を「やへば」、「遠海」を「遠見」に『補正』している。
なお、底本の『草稿詩篇「拾遺詩篇」』に載る以下の無題の草稿一種がある。以下に示す。誤字は総てママ。
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○
きみがやえばのうす情け
ほのかにせまる→くらい→ひらくにほふたそがれの
遠夜の 菊 窓のうすあかり
遠夜の櫻ほの白し
遠夜海の梗をひらかしめ
遠夜海の浪櫻をひか光らしめ
浪は浪々
きみがかたにへと
*]