鼻を吹く化粧の魔女 大手拓次
鼻を吹く化粧の魔女
水仙色のそら、
あたらしい智謀と靈魂とをそだてる暮方(くれがた)の空のなかに、
こころよく水色にもえる眼鏡(めがね)、
その眼鏡にうつる向うのはうに
豐麗な肉體を持つ化粧の女、
しなやかに ぴよぴよとなくやうな女のからだ、
ほそい にほはしい線のゆらめくたびに、
ぴよぴよとなまめくこゑの鳴くやうなからだ、
ねばねばしたまぼろしと
つめたくひかる放埓とが、
くつきりとからみついて、
あをくしなしなと透明にみえる女のからだ、
ものごしの媚びるにつれて、
ものかげの夜(よる)の鳥(とり)のやうに、
ぴよぴよと鳴くやうな女のからだ、
やさしいささやきを賣る女の眼、
雨(あめ)のやうに情念をけむらせる女の指(ゆび)、
闇のなかに高い香料をなげちらす女の足の爪、
濃化粧の魔女のはく息は、
ゆるやかに輪をつくつて、
わたしのつかれた眼をなぐさめる。
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