彫金の盗人 大手拓次
彫金の盗人
おめおめとたちさわぐあをい蓮華(れんげ)の花びら、
かぎりなく耳をふさいでをれば、
あをさびた彫金(てうきん)のちひさな花びらは、
餌をもとめる魚のやうにさびしさにおとろへる。
わたしは形(かたち)のよいわたしの耳をおさへて、
たましひの寂(さ)びのとほのくのを待つてゐる。
あをくさびた佛(ほとけ)の眼(め)のやうなこの花びらは、
蘆(あし)の葉(は)のなかに浮く木精(こだま)のやうに巣をもとめてゐる。
わたしの耳はかなしみの泡をふき、
おとろへなげく花びらのたましひを盗(ぬす)みかくす。