顏 萩原朔太郎
顏
淺草公園活動寫眞のくらやみに
耳なき白き犬は殺されたり
慘酷にも殺されたりしが
殺されたる白き犬の幽靈をば
プラチナの映畫は繰返せり、
[やぶちゃん注:底本第二巻にある「習作集第九卷(愛憐詩篇ノート)」(五二四頁)に載る。標題部は「白晝の幻」を「顏」と改題したことを示す。なお、この詩と酷似するものが、底本第三巻の「未發表詩篇」(二六九頁)に載る。以下に示す。
顏
淺草公園活動寫眞のくらやみに、
耳なき白き犬は殺されたり、
慘酷にも殺されたり、しが、
殺されたる白き犬の幽靈を、ば、
プラチナの映畫は繰返せり。
――東京遊行詩扁、五――
(東京遊行詩扁一、二、三の三扁は地上巡禮十二月號に所載)
取り消し線は抹消を示すが、この抹消は少し特異である。底本の記号に従ったのであるが、これだと、それぞれ3・4行目は、
「慘酷にも殺されたり、」と書いた後に、「しが、」と書いて抹消
「殺されたる白き犬の幽靈を、」と書いた後に「ば、」と書いて抹消
したということを示している。ノートと未発表詩という性質を時系列から考えるなら、掲げたノートが先にあって、この未発表なのであろうが、だとすると二箇所の、この書き込みと抹消は聊か妙な感じがする(のは私だけだろうか?)。]
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