耳嚢 巻之七 銕物の疵妙藥の事
銕物の疵妙藥の事
針釘の類踏(ふみ)たて怪我なしたる妙藥夫々有(ある)事を、同寮にて咄し合(あひ)しに、右の藥はかまきりを押(おし)潰し付(つく)れば、殘れる銕氣(かなけ)を呼出(よびいだ)し奇々妙々快(こころよき)よし。かま切を干置(ほしおき)て貯へ、付てよし。又は黑燒にいたし置、付(つく)べしと也。
□やぶちゃん注
○前項連関:特になし。民間療法シリーズ。所謂、破傷風などを重篤な症状を視野に入れたものであろうが、カマキリでは……。なお、本話は短いながら、岩波のカリフォルニア大学バークレー校版とちょっと叙述が異なる。以下に全文を正字化、読みを歴史的仮名遣に代えてして示しておく。「なまなれば猶奇功有よし」などは文脈上はこちらよりしっくりくるのである。
銕物(かなもの)の疵(きず)妙藥の事
針または釘を踏(ふみ)たて怪我なしたる妙藥、まゝある事を、同寮(どうりやう)にて咄合(はなしあひ)し。右の藥はかまきりを押潰(おしつぶ)しつくれば、殘れる銕氣(かなけ)を吸出し奇妙に快(こころよき)よし。かまきりを干置(ほしおき)貯へ、付(つけ)てよし。なまなれば猶(なほ)奇功有(ある)よし。或る人の語りぬ。
・「銕物」は「かなもの」と読む。金物。
・「同寮」底本では右に『(同僚)』と傍注する。
■やぶちゃん現代語訳
金物(かなもの)の傷の妙薬の事
針・釘の類を踏み抜いて怪我を致いた場合の妙薬は、これ、さまざまにあるということを、同僚らと話し合って御座った折り、その際の藥としては、生きた蟷螂(かまきり)を押し潰して傷口に塗付すれば、創内(きずうち)に残った金気(かなっけ)を自然に吸い出して外へ出だし、奇妙絶妙に快癒する由。蟷螂を干し置いて貯えたものを、塗ってもよく、また、蟷螂を黒焼きにして貯えおいたものをつけてもよいとのことであった。
« 指さきに吸ひつく魚のこゝろよりつめたく秋は流れそめたり 萩原朔太郎 | トップページ | 栂尾明恵上人伝記 39 浪の上(へ)に咲(ゑみ)を含みし顏(かん)ばせを想像(おもひや)るにも袖はぬれけり »

