鬼城句集 夏之部 蚊帳
蚊帳 高く吊つて蚊帳新しき折目かな
蚊帳の中に親いまは亡し月あがる
悼吾雲兄愛兒
枕蚊帳の翠微に魂のかへり來よ
[やぶちゃん注:「吾雲」『浦野芳雄の「創作の森」守る会』の俳人「浦野芳雄のプロフィール」に、大正元(一九一二)年三月に群馬県立高崎中学校を卒業、同四年には中学校の恩師村上成之(俳号蛃魚(へいぎょ))『及び村上鬼城、岩瀬吾雲の三氏と共に紫苑会に拠り、のち同一三年三月『村上成之氏が高崎中学を辞任するに当たり、村上鬼城と蝌蚪(かと=おたまじゃくし)の会、のちに五日会を起こし、鬼城氏の死去する昭和』一三(一九三八)『年に至るまで句作、俳論等を続ける』という中に現われる俳人の知音であろう。「枕蚊帳」は子供の枕元を覆うのに用いる小さな蚊帳のこと。「翠微」は音読みで「すいび」、「大辞泉」によれば、①薄緑色にみえる山のようす。また、遠方に青くかすむ山。例文「目睫の間に迫る雨後の山の翠微を眺めていた」(徳田秋声「縮図」より)。②山の中腹。八合目あたりのところ。例文「麓に細き流れを渡りて、翠微に登る事三曲二百歩にして」(芭蕉「幻住庵記」)とある。この場合は、特異的に死児の顔に添えられた枕蚊帳の青緑色のそれを、山に擬えたものであろう。]
*
個人的に僕は、この三句ともに非常に好きである。