思想と肉情 萩原朔太郎
思想と肉情 だれでも自分の「思ひ」を聞いてくれる人がなく、またこつちから話しかけるほどの人も居ない時、つまりが孤獨でゐて感情のはけ口を失つてゐる時、我等は思想の過剩に苦しんでくる。あの配偶者をもたない獨身者が、いつも肉慾の過剩に惱んでゐるやうに。 [やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年四月アルス刊のアフォリズム集「新しき欲情」の「第一放射線」より。「10」のナンバーを持つ。下線「はけ口」は底本では傍点「ヽ」。――なるへそ!――デユシャンの“La Mariée mise à nu par ses célibataires, même”(彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも)とは思想の過剰であったか!!!――]