僕の妹
僕が高校生の時、母が子宮外妊娠をした。女の子だったそうである。僕には十六離れた妹がいたのだった。
――芥川龍之介は僕の偏愛する「點鬼簿」の中で、彼の生まれる前に突然夭折した一人の姉「初ちゃん」のことを記している。……
……この姉を初子と云つたのは長女に生まれた爲だつたであらう。僕の家の佛壇には未だに「初ちやん」の寫眞が一枚小さい額緣の中にはひつてゐる。初ちやんは少しもか弱さうではない。小さい笑窪のある兩頰なども熟した杏のやうにまるまるしてゐる。………
……僕はなぜかこの姉に、――全然僕の見知らない姉に或親しみを感じてゐる。「初ちやん」は今も存命するとすれば、四十を越してゐることであらう。四十を越した「初ちやん」の顏は或は芝の實家の二階に茫然と煙草をふかしてゐた僕の母の顏に似てゐるかも知れない。僕は時々幻のやうに僕の母とも姉ともつかない四十恰好の女人が一人、どこかから僕の一生を見守つてゐるやうに感じてゐる。……
僕も時々、芥川と同じように――幻のように僕の年の離れた可愛らしい妹が、僕の背中で人形を抱えて唄を歌っているのを感じることがあるのである――

