灰色の蝦蟇 大手拓次
灰色の蝦蟇
ちからなくさめざめとうかみあがり、
よれからむ祕密(ひみつ)のあまいしたたりをなめて、
ひかげのやうなうすやみに、
あをい灰色(はひいろ)の蝦蟇(がま)はもがもがとうごいた。
おほきなこぶしのやうな蝦蟇(がま)だ、
うみのなかのなまこのやうな
どろどろにけむりをはきだす蝦蟇(がま)だ、
たましひのゆめを縫(ぬ)つてとびあるく蝦蟇(がま)だ。
その肌(はだ)は ざらざらで、
そのくちびるはくろくただれ、
しじゆうびつしよりとぬれてゐる。
まよなかに黄色(きいろ)い風(かぜ)がふくと、
この灰色(はひいろ)の蝦蟇(がま)は
みもちのやうにふくらんでくるのだ。
蝦蟇(がま)よ おまへのからだを大事(だいじ)にして
そのくるしみをたへしのんでくれ。
さよなら さよなら
わたしのすきなおほきな蝦蟇(がま)よ。
[やぶちゃん注:「みもち」身持ち。妊娠すること。]