疾患の僧侶 大手拓次
疾患の僧侶
みつめればみつめるほど深い穴(あな)のなかに、
凝念(ぎようねん)の心をとかして一心にねむりにいそぐ僧侶、
僧侶の肩に木(こ)の葉(は)はさらさらと鳴り、
かげのやうにもうろうとうごく姿に、
闇をこのむ蟲どもがとびはねる。
合掌の手のひらはくづれて水となり、
しづかにねむる眼(め)は神殿の寶石のやうにひかりかがやき、
僧侶のゆくはれやかな道路(だうろ)のまうへに白い花をつみとる。
底のない穴(あな)のなかにそのすみかをさだめ、
ふしぎの路をたどる病氣の僧侶は、
眼もなく、ひれもなく、尾もあぎともない
深海(しんかい)の魚のすがたに似(に)て、
いつとなくあをじろい扁平(へんぺい)のかたまりとなつてうづくまる。
僧侶のみちは大空(おほぞら)につながり、
僧侶の凝念(ぎようねん)は滿開(まんかい)の薔薇(ばら)となつてこぼれちる。